第3回 ZAIM サポーターズスクール報告
去る16日(土)、第3回 ZAIM サポーターズスクールが行われました。
今回は、「ボランティアを もっと深く 楽しむ方法〈入門・中級編〉」と題し、さらに、 ~奈良美智+graf「A to Z」展、「越後妻有 大地の芸術祭」修学旅行報告会と今後に向けてのディスカッション~という、長いサブタイトルがついたものでした。
市民の立場で現代アートに関わるための最も身近でワクワクする方法は、ボランティアとして展覧会に参加することでしょう。「横浜トリエンナーレ2005」でも、作品制作補助に、ガイドツアーに、会場運営に事務局運営にと、ボランティアが大活躍しました。
現代美術の展覧会でボランティアが活躍しているのはハマトリだけではありません。そのような展覧会の代表的な例として、展覧会自体がすべてボランティアによって運営されている奈良美智+graf「A to Z」展、ボランティア「こへび隊」の活躍が注目されてきた「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」があげられます。
ZAIM サポーターズスクールでは、この夏の話題を集めた上記2つの展覧会でのボランティアによる運営の実際を学ぶための〈修学旅行〉を企画。今回のスクールでは、修学旅行に参加した人たちからの現地取材報告をもとにこれら2つの展覧会そのものの魅力を知り、合わせて、「ボランティアとアートの理想の関係とは」、あるいは、「ボランティアをもっと深く楽しむ方法」をみんなで考えようというものでした。
最初に、弘前の「A to Z」展について、修学旅行(現地視察旅行)に参加した山岸泉さんから詳細な報告が行われました。
このときの修学旅行の一行が視察に訪れたのは7/29・30の2日間で、展覧会の視察そのものは比較的短時間だったのですが、その後、今回の報告に備えて、関係者の方に追加取材をしたり、ウェブや雑誌記事等で調べ物をしたりして、大変内容が濃くて細かいところまで行き届いた報告がなされました。
この報告を聞いて、今回アドバイザーとして出席して頂いた横浜美術館の天野太郎さんがしきりに感心していたほどです。
弘前での奈良さんの展覧会が実現したそもそものきっかけは、吉井酒造煉瓦倉庫のオーナーである吉井さんが、自宅で奈良さんの展覧会をやりたいと関係者に伝えてきたからだそうですが、その経緯については、私は山岸さんの報告で初めて知りました。
あとで天野さんが補足してくれたところによると、それはちょうど2002年に横浜美術館で奈良美智個展「I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME.」をやっていた頃で(ちなみに、廃材を使って小屋を組み立てる手法はこのときの横浜で始まったという)、そこから、弘前での開催可能性を検討しはじめ、結局、当初決まっていた各地(芦屋市立美術博物館、広島市現代美術館、北海道立旭川美術館)の巡回展のあと、最終開催地が弘前になって、17万人の人口の弘前市で6万人を来場者を集めるという大成功を収めることになったということです。
その後、2003年12月の「S. M. L. 展」(大阪)から graf とのコラボレーションが始まり、それが、「横浜トリエンナーレ2005」を含む日本各地、台北、ソウルなどを経巡って、4000㎡以上の広さがある吉井酒造煉瓦倉庫内に40以上の小屋が立ち並ぶ「A to Z」展としてひとつの集大成を迎えたのが今回の展覧会なのです。
山岸さんからは、ボランティアの人たちの様子、役割と人数、スタッフシフトの決め方などが、具体的な数字入りで報告され、弘前市内の街中の案内看板等の様子の紹介とか、街中にあるお菓子屋さんが「A to Z」展にちなんだオリジナルのお菓子を商品化して販売していたこと、などを含め、実際にボランティアとして参加している人に聞き取りをした内容を紹介するなど盛りだくさんの内容の報告がありました。
ボランティアとして関わっている人たちの意識については、みんな楽しんでやっているし、関わっている人たちはみんな奈良さんのファンだから、この展覧会を成功させたいという点について温度差はない、というコメントが紹介されました。
(この後行われた青森県立美術館の視察報告分については割愛します。)
これに続いて、「越後妻有 大地の芸術祭}に関して、東京からボランティアチーム「こへび隊」に参加してきた橋本典子さん、藤田峰代さんから、現地でのこへび隊の活動の様子がたくさんの写真を使って説明されました。
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2006」は、新潟県妻有地域(十日町市と津南町)の一市一町にわたる里山の自然の中に、46の国と地域のアーティストによる336の作品が設置されている型破りのアート展です。ちなみに、前記一市一町の面積は、東京23区より広いということです。
妻有地域は、一昨年の洪水、中越地震とそれに続く昨年の豪雪で何度も大きな被害を出したところで、その影響で空き家が多く出来ていて、今回は空き家を利用した作品が多くあったことも特徴のひとつでした。
今年は、来場者が大幅に増えて全体で30万人にもなったということです。ちなみに、第一回(2000年)は16万人強、第2回(2003年)は20万人強だったとのこと。
こへび隊の人数は約800人で第一回、第二回のときとほぼ同じだったとのことですが、第一回、第二回の設置作品も残っていて展示作品数が増えたため、人数が足りなかったとのこと。それでも、最後の方はかなりボランティアの人数が増えたということです。
さて、東京周辺からこへび隊に参加して活動しようと思う人は、毎週東京(代官山のアートフロントギャラリー)から「こへびバス」が出ていて、それを利用すると交通費はかからないで参加できるしくみになっていました。
このバスツアーを利用して東京から行く人は新潟までわざわざ行きたいと思っていくわけですから、やはり現代アートが好きな人たちが集まっています。
今回の報告の発表者の橋本さんと藤田さんから、数多くの現地の作品やボランティアの方々の活動を記録した写真が紹介され、現地の拠点になっている会場でのミーティング、宿舎となっている小学校の教室にしつらえられたベッドや食堂の様子、100円の朝食、300円の夕食の写真など、ひとつずつについて具体的な紹介がなされたので、実際に現地でこへび隊の活動に参加したわけでもない私にもボランティアの様子がよくわかり、「大地の芸術祭」という展覧会への親近感がわいてくる発表でした。
現地の状況はというと、多くの作品が野外に設置されており、それも山間部に入ったところが多くあります。そういう場所では近くに商店などまったくないので、朝宿舎近くのコンビニの弁当を買っていって昼食はそれを食べるそうです。
また、朝早くから夜遅くまで働くことになり、夜は集金の確認をしているとすぐに12時頃になってしまうので、これが連日続くと体力的に相当きついということです。
そのほか、近所(地元)の人たちから野菜などの差し入れがたくさん届くこととか、アーティスト日比野克彦さんが社主をつとめる明後日新聞(あさってしんぶん)の様子とかも紹介されました。
この芸術祭自体が、里山の自然の中で行われるものなので、街中の美術館の中で作品を見るのとはまったく違う体験であることは明らかです。作品を見るつもりで旅をしていても、美しい里山の風景が常に目に入り、そのことによって普段と違った生活のあり方を見出すことが誰にも起こります。こういうことこそ、この芸術祭の醍醐味だろうと思います。稲の生育の度合いが山の中と町近くでは違う、ということも、都会から訪れる人には、そこでしか得られない発見であり、感動なのですから。
妻有に来て、ボランティアではなく、一鑑賞者として作品を見て歩くにはバスツアーが用意されていて、南と北を回るバスがそれぞれ二系統ずつ、ダイジェスト版のツアーもあります。4つのルートを回ればほぼ全部の地域を回れるということです。
ボランティアの管理のことでいうと、ボランティアの全体の管理や仕事の割り当ては(北川フラム氏の)アートフロントギャラリーのスタッフが行っているとのこと。
地元の人たちの態度は、展覧会との個人的な関わり方の度合いによって関心に差があるそうです。制作段階からアーティストと一緒に作業をしたり、そばで見ていた人たちはすごく面白がってくれているのですが、そうでない人はまったく現代アートに興味がないままということが多いとのことです。
さて、以上の報告を受けて、第二部のディスカッションでは、ボランティアの魅力、ボランティアでないと経験できないことを挙げてもらったところ、発表者及び出席者の方々から、以下のような点が指摘されました。
・ただ作品を見て通り過ぎるのではなく、ずっとそこにいることで初めて見えてくるものがある
・作家と話が出来る
・お客の反応を見るのが面白い
これらは、たしかに現代アートの楽しみ方としてまっとうなものであり、そこに関わることでボランティアゆえの喜びを味わうことが出来るでしょう。
一方、ボランティアがアート展に関わることについて、課題、要改善点は何か、ということについて、参加者のひとりから、次のような指摘がありました。
いわく、ボランティアによるマネジメントは、もちろん、よい点もたくさんがあるが、ボランティア故の能率の悪さがボランティアの不満につながることもあるのではないか、などです。
たしかに、今回のディスカッションでも、ボランティアとして参加する個人にとってのモチベーションとかメリットという話はたくさん出ましたが、どのような運営のあり方がボランティアの魅力を全体として増すことになるのか、という運営の視点、マネジメントの視点については、あまり議論が及ばないままに終わってしまった感があります。
昨年の横浜トリエンナーレ2005でも、ボランティア・マネジメントや全体運営については、改善すべき点がたくさんあったものと思います。今後、次回の横浜トリエンナーレに向けて、今から想起しておくべき課題と言えるでしょう。
投稿者 sota : September 21, 2006 07:38 PM
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